「抗菌」をすればするほど病気のリスクが高くなる?──抗菌・滅菌・殺菌・除菌
日本人の清潔志向を象徴するのが、病院、公共施設、ホテル、介護施設などの入り口に置いてある消毒液です。風邪が流行りだすと、それを使う方が多くなります。
最近はテレビの健康番組などの影響で菌を撲滅することに使命感を覚え、会社や公共施設のあちこちにもスプレー式の消毒液を置いてあり、それを見かけると一日に何度も手を殺菌する方が増えています。
結論から言えば、これは無駄な努力であるばかりか「有害」でさえあるのです。
理由は二つあります。一つは消毒液を使うと表皮が剥がれてカサカサになってしまうからです。ひび割れたところから細菌やウイルスが入ると皮膚科の診察を受けることになります。
わが国で噴霧式などの消毒液がいろんな所に置かれるようになったのは、1996年にO-157が社会問題になったのがきっかけでした。その年は消毒液を使い過ぎる方が続出し、手荒れなどの症状で皮膚科の待合室はどこも人でいっぱいになりました。
人間の表皮には、病気のもとになる細菌やウイルスの侵入を防ぐバリア機能があります。
最近の研究で表皮の中にあるランゲルハンス細胞がその防御機能を担っていることも解明されています。そのような優れものの機能があるのに、わざわざそれを排除してしまうのは本末転倒というしかありません。
敵の侵入を防ぐ役割を担う皮膚常在菌を殺す
もう一つの防御機能は皮膚常在菌です。人間の皮膚はよくできていて二重に細菌やウイルスを防ぐ機能を持っています。実は人間は皮膚の表面の薄い粘膜に病原菌などの外敵の侵入を防ぐ役割を担う有用菌を棲息させています。これが皮膚常在菌です。
過剰な消毒が有害だという、もう一つの理由は、これも殺すことになるからです。殺すまで行かなくても、この皮膚常在菌は自然状態である弱酸性に保っていかないと活発に働いてくれません。消毒液で見せかけの清潔さを得るために、こんな優秀なガードマンを働けなくすることはどう考えても賢いことではありません。
ここで強調しておきたいのは皮膚が持つ生体防御機能を軽く見てはダメだということです。私たちの日常生活では菌がまわりにうじゃうじゃいるのが正常な状態です。人間は口や鼻から呼吸するだけでなく、皮膚呼吸もしています。
これができなくなると人は死んでしまう。それぐらい大量の呼吸を皮膚を通じて行なっています。当然皮膚呼吸を通じて病気を引き起こす菌やウイルスも侵入してきますが、病気にならないのは皮膚に強力な自己防御機能があるからなのです。
それがどれだけ強力なものか理解するのは、熱帯地方や南国のリゾートに観光に行った時のことを思い浮かべるといいでしょう。それらの海外には、日本にはいないような怖い病原菌が無数に存在するのに、現地の人たちは、皮膚を多く露出させた軽装で歩きまわっています。そんな無防備な姿で皮膚呼吸をしているわけですが、とくに病気にかかりやすくはありません。皮膚に高度な防衛機能があるので大丈夫なのです。
皮膚と同様に常在菌を棲息させて、身体を正常に保っているのが腸です。最近は大便の半分はこの腸の常在菌の死骸であることが知られるようになり、重要な役割を担っていることが理解され始めていますが、皮膚の常在菌についてももっと理解が深まってもいいのではないでしょうか。
本当は怖いことだらけの「抗菌グッズ」
抗菌グッズというのは、製品に各種の消毒剤や抗菌作用のある物質を混ぜて弱い殺菌能力を持たせたグッズのことです。
これは、もともと医療用に開発されたものです。寝たきりの人や、手術を受けた直後の人は免疫力が極端に落ちているので、肺炎球菌のようなふだん身の回りにも多く存在する細菌に感染して肺炎になったり、他のありふれた細菌に感染して敗血症になったりします。
このような方が抗菌シーツや抗菌パジャマを使えば身のまわりに存在する細菌を一時的に減らすことができるメッリットがあります。また手術を担当するドクターやナースにとっても抗菌手袋やマスクは、患者さんの感染症を減らす一助にもなるということで、抗菌グッズはもっぱら医療の現場でニーズがあったのです。
そんな状況が一変したのが1996年のO-157騒動でした。このときはメディアに菌の怖さを煽る情報が氾濫し、日本中が〝菌恐怖症〟になった感がありました。これに便乗したのが販路の拡大に悩んでいた各種の製造業です。
食品を保存する冷蔵庫を手掛ける家電メーカーはさっそく冷蔵庫、洗濯機、掃除機などに抗菌機能を持たせるようになり、トイレまわりやお風呂まわりの製品も「抗菌」という冠が付かないと売れなくなりました。
マスクや綿棒も多くの商品が抗菌になり、下着、靴下にも抗菌素材を使ったものになりました。菌恐怖症になる人は小さい子を持つお母さん層に多かったので、キッズマーケットには抗菌ランドセル、抗菌学習机から抗菌ノート、抗菌消しゴムまで続々と登場して、よく売れました。 このようなニーズの拡大で抗菌グッズの市場規模は膨れ上がり、現在は1兆円を優に超えているともいわれています。
気休め産業1兆円
そんな抗菌グッズ産業は日本ならではの〝気休め産業〟だと私は思っています。健康な人が使ってもメリットはないのに、買う人は病気の予防効果があると思い込んでいるからです。
みなさんの中には、とくに害がないなら、それでもいいじゃないかとお考えになる方もいらっしゃると思います。たしかに害がないなら、うるさく言う必要はありません。抗菌グッズを病気除けのお守りと考えればいいだけです。
しかし、無菌グッズの乱用は、多剤耐性菌の氾濫という怖い事態を引き起こす可能性が高いのです。
抗菌グッズには強い殺菌効果はありません。強力な殺菌効果を待たせてしまったら、アレルギー性の皮膚炎が多発することになるからです。大半は、接触する部分に存在する細菌を一時的に減らす効果しかありません。
これが怖い結果を招くのです。強力な攻撃でなくても、「菌」というものは生存を脅かされると〝耐性〟を獲得してより強力なものに変身することがあるからです。
耐性を獲得した菌は抗菌物質が入り込んでも、すぐにそれを排除してしまいます。これが「耐性菌」です。抗菌グッズを乱用すればするほど自分の身の回りにこうした薬の効かない菌が増えるのです。これらの菌は、あなたが元気なうちは、おとなしくしていますが、病気などで体力が弱ったときに暴れだすことがあります。
そうなったら大変です。抗生物質が効かないので苦戦は必至で、最悪、命を落とすことになりかねないからです。こうしたリスクもはらんでいるので、抗菌グッズを乱用するのは注意が必要なのです。
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