以前、「やめたいのにやめられない睡眠導入剤」についてのブログを載せたところ、思いのほか多くの方に読んでいただきました。
ということは…不眠に悩み、睡眠剤をやめられずに苦しんでいる方がたくさんいるということなのでしょう。そんな皆さんの気持ちが少しでも楽になるように、薬が少しでも減らせるように…。そんな思いでこのブログを書いています。
睡眠時間の適正値には個人差がある
「睡眠負債」という言葉が流行語となり、睡眠時間が短いことがどんどん負債をかかえていく…というイメージも定着してしまったように思います。
以前もお話しましたが、私自身の睡眠時間は4時間くらい。疲労が取れないということであれば睡眠負債も考えられますが、目覚めもさわやかだし、今のところ人より早く老化しているということもなさそうで、負債はかかえていないようです。
いつもお伝えしていることですが、身長や体重がそれぞれ違うように、その人にとって適正な血圧やコレステロール値にも個人差があると思っています。適正な睡眠時間にも個人差があるのではないでしょうか。
重要なのは、なかなか寝付けないこと、夜中に何度も起きてしまうこと、朝早く目が覚めてしまうことを辛いと感じるか、そのことが日中の活動にどれだけ悪影響を及ぼすか、ということだと思います。
ですから不眠症かどうかの判断基準は、「眠れないことをどれだけストレスと感じるか」ということです。
不眠症の判断基準
睡眠薬を処方されているのは圧倒的にご高齢の方が多いのですが、その理由に「夜中に目が覚める」ということがあります。歳を重ねることで体内時計にも狂いが出てしまうのは当然のこと。
夜中に目が覚めてしまうことを問題視する方もいれば、実際、同じような中途覚醒があっても「年のせいだから」と気にせず元気に生活している方もたくさんいます。
「昔はもっとぐっすり眠れた」と若い頃と比較していたら、その差はどんどん広がるばかりです。
「不眠症」の人の不眠が解消されなくても、日中に眠気や疲労感がなく、不眠による体調不良が改善したのなら、これは「不眠症が治った」と考えてもよいのではないでしょうか。
つまり、「夜よりも昼間の体調」のほうが判断基準となりえると思うのです。
“依存性のない安全な睡眠薬”のはずなのにやめられない理由
現在、処方されている睡眠薬は「ベンゾジアゼピン系」といわれるもので、依存性はあまりないとされています。私自身、薬局の窓口で、「古いタイプの睡眠薬は依存症になりやすかったのですが、今の睡眠薬は、依存性のない安全な睡眠薬です。」といって薬を渡していました。
それなのに、多くの方が「依存性のない安全な睡眠薬」をやめられずに苦しんでいるのです。プラセボ的には、「睡眠薬を減らすことへの不安」がさらに不眠を招いていることも多いと思います。
「心理的不眠」を乗り越えるコツ
「自分は依存症ではない」
「この不安は一時のことで長く続くものではない」
と思えるかどうか。
睡眠薬を減らしていくコツ=少しずつ徐々に減らしていくことです。
1錠飲んでいたら、3/4錠にしてみる。
大丈夫なら1/2錠に。
それから1/4錠。
そして止める!
※その間、それぞれ2週間は様子をみながら。
急な減薬は厳禁!!「やめられたらラッキー」の気持ちで充分です
誰だって、ずっと飲んでいた薬を減らそうとしているのですから不安だったり緊張もするでしょう。そうなると、目が冴えてしまうのは当たり前です。
はやく薬を減らしたい気持ちも分かりますが、急な減薬は、不眠だけでなく、不安感や動悸、めまいなど苦しい症状が一挙に出現することもあるので注意が必要です。
一気に階段を昇ろうとすれば、息もあがってしまうし、つまずいて転げ落ちてしまうかもしれません。ここは、着実にゆっくり転ばないように階段をあがってくださいね。
一段ずつ着実に階段を上ることが「不眠恐怖症」を解消してくれます。
減薬するにあたり「絶対にやめるという強い信念を持つ!」と指導する方もいますが、私は「やめられたらラッキー」くらいの気持ちで臨む方がいいと思います。
「どうしても最後の1/4錠がやめらません」という人なら3/4も減らせたことにフォーカスしましょう。飲む日、飲まない日があってもいいじゃないですか。「枕元に置いて、眠れないときは飲む」とゆるく考えると「いつの間にか手放せた」なんてこともよくあります。
また、睡眠薬を飲むことであきらかにぐっすり眠れて日中元気に過ごすことができるというのであれば、無理に減薬する必要もないと思います。
睡眠不足対策のはずが不眠を悪化させてしまう事とは?
寝つきが悪いから、睡眠不足にならないように早めに布団にはいるという方もいると思います。しかし早寝は不眠に対して効果がないばかりか、むしろ不眠を悪化させることが明らかになっています。たとえば夜9時に寝ついたとしても、数時間で目を覚ましてしまい、そこから朝まで辛い長い夜をウトウトと過ごすのです。この毎晩経験する「辛い時間」が「不眠恐怖症」を作ります。
同じことを強制的にさせられているのが入院患者さんです。ほとんどの病院では消灯時間は夜9時です。9時になると強制的に電気を消されてしまいます。そして起床時刻の朝6時まで眠れない夜を過ごすのです。同室の患者さんもいればなおさら、家でするようにテレビをつけることも読書することもできず、物音を立てないように、長く辛い9時間を過ごさなければならないのです。
これでは「睡眠恐怖症」になってしまいます。私が病院に勤務していたときも、入院中の不眠に悩まされて、睡眠薬の服用を始めてしまう患者さんはとても多かったです。
また、不眠症に悩んでいる方の大部分は実際より睡眠時間を短く感じているそうです。
『慢性不眠症の患者さんの大部分(ほぼ100%)は脳波で測定した実際の睡眠時間よりも眠りを短く感じ、寝つきにかかる時間(消灯から入眠までにかかる時間)も長く感じる。』という研究データも出ています。
「眠れていないようだけど、実際は眠れてるんだよね」と思える心の余裕も必要かもしれませんね。
不眠症対策をしても改善しない場合に見直して欲しい事
寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう、そんな眠りに関する悩みをもつ方は、まず生活習慣の見直しをしてみましょう。
朝日を浴びる
基本中の基本は、朝起きて、朝日を浴びることです。これをせずに「眠れない」と言っている人はとても多いです。朝日を浴びることで、セロトニンという人を活動的にするホルモンが分泌されます。
そのセロトニンが14〜15時間後にメラトニンという眠りに誘うホルモンに変わります。セロトニンがしっかり分泌されなければメラトニンも生成されず、うまく眠れません。まずは自然の睡眠剤である自分のメラトニンをしっかり活用しましょう。
運動習慣
それから、眠れない人の傾向に運動習慣の少なさがあげられます。オフィスでデスクワークの多い人はどうしても運動不足になりがち。
ですから、たとえばちょっと早起きして朝日を浴びながら散歩してみる。通勤時にひと駅、歩いてみる。そんな運動習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。
睡眠薬や睡眠導入剤のリスクを知っておく事も大切です
実は、とってもご相談の多かったので睡眠をテーマにした書籍
『睡眠薬その一錠が病気をつくる』
出版社: 河出書房新社 (2018/12/22発売)
が出版されることになりました。
まるで風邪薬のように簡単にのんでいる睡眠薬がもたらす依存症の危険性や、薬に頼らず良い睡眠を得られる具体的な方法を紹介する1冊になっています。睡眠でお困りの方の力になれば幸いです。
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